トリフ(Torifu)




去年だったか、夏の暑い盛りにふらっと立ち寄った喫茶店
タイムスリップしたかのように昭和の雰囲気が漂う。
懐かしい80年代の楽曲が流れ、客もまばらな店内は時間がゆったりと流れる。
アイスコーヒーで一息ついたら、ただひたすらぼうっとしていた。
ただただ昔ながらの変わらない店内がすごく印象的だった。
それからしばらく経って、今年の正月にふと立ち寄った。
ちょうど、十六社巡りをしようと最初の粟田神社にお参りした帰りだった。
御朱印を入れる手提げ袋が目についたらしく、店のおばちゃんが声をかけてきた。
少し雑談をしながら、前と同じようにコーヒーを飲んだ後は、いつものようにぼうっと時間を過ごした。
それから何度か店に立ち寄ったが、そのたびに二言三言と言葉を交わした。
顔見知りになっていくと、ますます店が好きになる。
6月の初め、ふと店に行くと、帰り際に店を月末で閉めるのだと言われた。
店の老朽化のため大家が取り壊してしまうのだという。
いつかは無くなってしまうのだろう、と思っていたことが突然目の前に現れた。
無くなるのを惜しみつつ、それから二度、店に足を運んだ。
最後に店の写真を撮らせてもらおうと、カメラを持っていったが、思ったより客が多く気が引けてしまった。
別れを惜しむ近所の人で席が埋まる。遠慮しながらこっそり写真を撮った。
今風のオシャレなカフェもよいが、こうした地元に愛される昔ながらの喫茶店は貴重なのだと、最近特に思う。
作ろうとしても作れない。無くなってしまったら、もう二度と出会うことはないのだから。
店のおばちゃんから、この後は銀閣寺近くの喫茶店で手伝いをすると聞いた。
今度来るときは彼女を連れておいでと、にこやかに笑ってくれた。