白峰二日目




朝七時に起きる。昨日、遅くまで起きていたせいか、まだ寝足りない。
朝食は八時半。ごろごろしながら夢うつつで過ごした。
外に出てみると雨は止んでいたが、地面はしっかり濡れている。
低い空は灰色にどんより曇る。寝泊まりする別館から本館に向かった。


日頃の朝食に比べたら旅館の食事は豪華すぎる。
それほど食べていないにも関わらず、妙に腹いっぱいに感じる。
朝食を終えてしばらく部屋で休憩する。腹が落ち着いたところで総湯へ向かった。
総湯だけあって中は広々している。室内の湯船で適当に温まり露天風呂へ入った。
すぐ目の前は川が流れ、その先にはこぢんまりした山がある。
雲はまだ多いが時折晴れ間もあり、涼しげに吹き抜ける風が心地よい。
湯加減も熱すぎず、ゆっくりと湯につかることができた。


昼過ぎから外に出かけた。すぐに雨がぱらぱら降ってきた。山の天気は変わりやすい。
まずは昼飯をと、目星をつけた店に向かう。観光地図をたよりに小さな定食屋に入った。
家族連れと思われる四人が食事をしている。壁にあるお品書きをざっと見ると、どうもなめこが名物らしい。
そういえば、店先にも袋詰めのなめこが売りに出されていた。なめこ丼を注文した。
狭い店内のテーブルに、先の四人が窮屈そうに座っている。父親らしき人物は大柄で熊みたい。
ガラ悪くぐちゃぐちゃしゃべりながら、くちゃくちゃ音を立てて食べている。
父親の前は、息子とおぼしき二人が座る。なんとなく息子らもガラ悪く見えてきた。
テーブルの上は定食の食器であふれている。おろしそばを食べているのだろう。
人のを見ていると自分も食べたくなる。なめこ丼は失敗だったかとうっすら思う。


なめこ丼が来た。あっさり薄味、とにかくなめこが大きい。なかなかおいしかった。
店を出るとき、カウンターにとち餅を見かけた。そういえば、とち餅は食べたことがない。
とち餅くださいと言うと、店主がレンジでチンするか軽くあぶってと返した。
あ、しまったと思い、そのまま食べられるか聞いてみると、食べられないことはないが堅いよと。
まあ食べられるんならいいかと、とりあえず買うことにした。


店を出てもまだ雨が降っている。それほどきつくもないので、気にせず散策を続けた。
少し歩くと神社があり、そのすぐ脇にお寺がある。この辺りまで来ると、雨脚が強くなってきた。
寺の境内で雨宿りするが、いっこうに落ち着く気配がない。
降り続く雨をぼんやり眺めながら、思い出したようにとち餅を食べてみた。
なるほど確かにすこし堅い。味はほとんどない。
なにかゴムでも食べているような感じで、仕方なしにすべて食べた。


雨はさらに強くなり、テレビのワンシーンで見るようなシャワーとなる。
目の前の山は白い雲で覆われてしまった。
しばらく様子を見ていたが雨は変わらず降り続けるので、今日の散策はあきらめた。
部屋に戻る道すがら、酒屋で地酒の大吟醸を買う。
味は好みでなかったが、飲みやすいのですぐに飲み干した。
日曜の昼下がり、酔いに任せた眠りから覚めると外はすっかり晴れていた。